さて、ここまでのところで「希望」と「思想」という熟語を詳しく調べました。例としてはこの他に、共感、文化、存在、孤独なども漢字熟語の例として挙げましたが、今回は、漢字熟語だけに集中していると思わぬ穴が開いてしまうという話です。
例えば、下記のような言葉はどうでしょうか。
<易しい漢字を使った言い回し>
・取って返す ・声をつまらせる 声を詰まらせる
・身じろぎもせず ・身の毛がよだつ
・身ぶるいする ・三つどもえ 三つ巴
・ほそおもて 細面
最初の「取って返す」の意味は、「ものを手に取ってそれを相手や元の位置に戻す」という意味ではありません。「途中から急いで引き返す」という意味です。物語文の中で使われた場合は前後関係から正しい意味が取れるかもしれませんが、説明(論説)文の中で使われていたらどうでしょうか。
次の「声をつまらせる」は、「物理的に喉がつまり声が出なくなる状態」ではありません。「感情が高ぶり、言葉を出すことが難しくなる様子」を表現する言葉です。
次の「身」を使った三つの言い回しのそれぞれの意味が正確に分かる小学生はごく少数に限られるのが現状です。
他の言葉の意味は、是非とも、ご自分で調べてみて下さい。
<入試では通常、平仮名だけで書かれる言い回し>
・たたずむ 佇む ・ぶっきらぼう
・あおむけ 仰向け あお向け ・うつぶせ 俯せ うつ伏せ
・すごすごと ・せかせかと
・とっぴな 突飛な ・くぐもる
最初の「たたずむ」はどんな意味でしょうか。もちろん「しばらく一か所に立ちどまる」ことですが、説明(論説)文の中で使われたら、この言葉の意味を正しく理解できる小学生がどれくらいいるでしょうか。
次の「ぶっきらぼう」は「口のきき方や動作に愛敬(あいきょう)がなく、ぞんざいなさま」というのが正しい意味ですが、「乱暴な」とまでは言えない微妙な感じを理解できるでしょうか。
「あおむけ」や「うつぶせ」はさすがに理解できる小学生の方が多いのではないかと思われるかもしれませんが、意外や意外、小5でも理解できている子は少数派です。
まして、最後の「くぐもる」となると、「口ごもる」からの派生語で「言葉や声が口の中にこもってはっきりしない」様子、「言うのをためらう、途中で言うのをやめる」という正しい意味に到達できている子はほとんどいないと言っても過言ではありません。これは入試で実際に出題された問題ですが、正しいものを選ぶ選択問題であったにもかかわらず、受験業界では正解率の低さに驚かれ話題となりました。
ここから分かる大切な原則は、決して漢字熟語に特化してはいけない、むしろ、平仮名や易しい漢字が使われている言葉の意味に意識的に取り組んで、語彙(ゴイ:その子が理解し記憶して使える言葉の総量)を増やす訓練をしなくてはならないという事になります。

次回は、「漢字の覚え方」や「漢字が出来ているパーツ(部品)」について考える予定で居ます。
つづく